2007年5月26日土曜日

出藍の誉れ


 春の風に、木々の葉が表になったり裏返ったり、薄い緑と濃い緑が交互して踊っています。文房具屋さんでは、春になると、緑の絵の具の需要が増えていき、売れ筋の絵の具の緑色が徐々に濃差を増して行くのだそうです。私と20才違いで、誕生日を同じくする、私を励まして優しい声とまなざしを向け続けてくれたアメリカ人の方が、『緑は、天に向かってほめたたえる賛歌の色なのです!』と言われたことがあります。

 そういえば、風が揺らす緑の葉は、天に向かって、ザワザワでしょうか、サワサワでしょうか、歌を歌っているように聴こえるかのようです。また、風に揺れる様々な緑色の葉は、まるで天に向かって、両手を挙げて感謝しているように見えてなりません。

 家を出て、住居棟郡の中を抜けると、紫金山路につながる西園道の並木道に出ます。冬の間、枯れていた木々に芽が出たと思ったら、瞬く間に葉を出して、葉が幾重にも重なるほどの勢いを増して大きくなっていっていくのが分かります。
 
 中学の国語の時間に、お寺の坊さんで一級上の学級担任の先生が、「出藍の誉れ」と言うことばを教えてくれました。中国の戦国時代末の思想家(紀元前四世紀末)、趙に生まれ、斉の襄王に仕えた荀子が、「青は藍より出でて、藍よりもなお青し(『青出于蓝而胜于蓝』)」と言ったことばです。藍色の染料から、青い布が染め出されるのですが、その白布を染めた青は、元の藍よりもさらに青く鮮やかなのだそうです。
 
 そう教えてくれたS先生が、ちょうど相撲の番付に書くような、また寄席にある噺家の名を書くような、曲がりくねった字を書いていた私に、『剛、こんな字を書いてると出世しないぞ!』と言って注意してくれたのです。ひねくれた性格が直らないと同時進行に、字のひねくれも直らないで、今日になってしまいました。この先生の予言のことば(?)のように、出世もしませんでしたが。

 私に7年間生きる道を説いて教えてくれた師も、アフリカに行く途中に、時々訪ねて来ては、『何をするかではなく、どういった心の態度で生きるかが大切なのだ!』と、諭すように教えてくれたくれたちょっと斜視な方も、すでに召されてしまいました。彼らの藍色は、黄色がかった青い私よりも、数段青いままで召されて逝くきました。日本に来なければ、大リーグの野球選手になっていたり、大実業家になっていたのでしょうか、彼らも出世しないで人生の幕を下ろしたのです。私も彼らを超える「出藍」などありえませんので、彼らに倣って残りを生きて行きたいと願っているところです。
 
 実った稲穂の黄金色の黄色ならいいのですが、まだ未熟で黄色い私に、彼らの鮮明な「青」を加えると、「緑」が出来上がるに違いありません。彼らの教えを反芻しながら、初夏の風に揺れる木々の葉のように、天に向かって手を上げて生きて行きたいと願う、38度の酷暑の日の夕べであります。
(写真は、「緑の地球ネットワーク(GEN)」が緑化運動を推し進める中国・山西省のもの) 

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自己紹介

 次男に勧められて始めた「ブログ」ですが、2007年7月から1年間休刊しました。その間、他の「ブログ」を開設したのですが、2008年7月に、名前を変えて再開しました。  父として子どもたちに、爺として孫たちに、また母や兄弟や友人たちにも、何かを語り残したいと願って、続けています。