2009年3月29日日曜日

入笠山(にゅうがさやま)


 国道20号線を甲府から諏訪に向かって車を走らせますと、山梨県との県境を越えて長野県に入り、諏訪郡富士見町をしばらく北上しますと、左手に標高1995メートルの「入笠山(にゅうがさ)」が見えてきます。伊那市と富士見町に跨る山なのです。この山の頂上から、晴天の日の展望は、じつに壮観でした。東西南北、眺望が八方に開けているからです。これまで幾つもの山に登りましたが、この入笠山ほど遮蔽物が無く見晴らしのよい山は、他に類を見ないのではないでしょうか。その光景を、ことばで表現しても、写真で見てもらっても、十分に伝えられません。その頂きに実際に立って見回さないと実感がないのですから、表現のしようがないもどかしさを覚えてしまいます。秋だったのですが、大人と子ども10人ほどのパーティーで登山したのです。天候に恵まれて、それは感動的でした。秩父連邦も北アルプスも木曽の御嶽山も見ることができた、実に贅沢な登山だったのです。

 この山に一度で魅せられた私は、翌年の12月に家内を誘って、その登山計画を実行したのです。その日は晴れていましたが、2日ほど前に私たちの町では雨でした。『まだ雪にはなっていないだろう!』と思って、軽装で登り始めたのです。念のため、家内だけには、雪の滑り止めを携行していました。ところが、あの雨は、ここ入笠山では雪だったのです。登るに連れて、うっすらだった雪が足首を覆うほどになっていきました。『うぬ、だいじょうぶかな?』と思ったのですが、せっかく来た山でしたし、家内に頂上を見せたかったので強行したのです。スキー場の脇を上って行きましたら、不安が的中して、だいぶ積雪がありました。そうしましたら悪いことに、風が吹き始めたのです。雪の表を吹いて渡って来ますから、冷たいのと言ったら凍えそうでした。結局頂上行きをあきらめて、風をふさぐ小屋の影で、震えながら握り飯をぱくついたのです。早々に昼食を済ませて、下山することにしたのです。『林道を下ったほうが楽だろうね!』と、その道をとりましたら、ここも北側の林道には、20センチほどの積雪があって、なんと獣の足跡もあちこちにあるではありませんか。鹿だったら、仕方が無いかなと思いましたが、『熊が出てきたら、くまった(困った)ことになるけど、どうしよう?』という不安が込み上げてきたのです。駄洒落どころではなくなってきたのです。その林道の雪は20センチほどあって、ある箇所はアイスバーンで凍っていたのです。家内は、アイゼンの付いた滑り止めをはかせたのですが、滑り止めの無い私は、何度も何度も滑って転んで腰を打ってしまったのです。泣きっ面に蜂で、『初老の夫婦、遭難!』と言う、新聞の見出しがちらつくほどでした。

 こんな辛い山歩きは初めてでした。やっと駐車場まで降りましたら、もう陽が西に傾き始めていました。命からがらの山行きでしたが、再挑戦の思いはいまだに消えないでおります。いつか帰国したら、この宿題を果たさなければと思う福州の春であります。そこには、山や眺望だけではなく、湿原もユリも鈴蘭も蓮華つつじもあって、旺盛に自然が息づいているのです。

(写真は、《富士彩景画像掲示板》の入笠山から遠く望んだ富士山です)

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自己紹介

 次男に勧められて始めた「ブログ」ですが、2007年7月から1年間休刊しました。その間、他の「ブログ」を開設したのですが、2008年7月に、名前を変えて再開しました。  父として子どもたちに、爺として孫たちに、また母や兄弟や友人たちにも、何かを語り残したいと願って、続けています。