2008年9月19日金曜日

お母さんを誇りに思っていた彼



 先ほど『覚えてる?』と、家内が読んでいる本のページの見開きを見せてくれました。そこに懐かしい人の名前がありました。12年ほど前になるでしょうか、アメリカの西海岸のポートランド近郊にある大きな会社を、15人ほどの友人や仕事仲間と家族も含めて訪問したことがありました。その社長の名前が出てきて、懐かしく思い出したのです。『日本から来た視察団、お客さま!』ということで大歓迎をしてくれました。こういったことは実に珍しいことなので、驚きましたから、いっそう印象深く思い出されるのです。




 街の大きなホテルの部屋をとってくださって、滞在期間中に食べたり使ったりするようにと品々がカードを添えて、”OREGON”と印字されている布袋に入れて、各部屋のテーブルの上に置いてありました。それは社長夫人が個人的に準備してくださった特別な好意であることを、後で知ったのです。会社の来歴と現況、スタッフの紹介、工場や施設案内、訪問した一人一人の自己紹介、懇談会、直筆の本の寄贈などが三日間ほどの日程の中に組み込まれていました。もちろん、観光もさせてくださいましたが。日本に強力な企業が建て上げられることを願って、創業期の苦労話もありました。彼の事務室に、15人ほどが座っての談話もありました。実はこの社長さんは、白血病を病んでおられたのです。今は、すでに召されておられて、新しい方が責任を取っておいでです。その彼が、遠くから訪ねてくれたと言う理由で、《キモセラピー》の治療を朝一番で終えて、事務所に見えられたとき、大きな手と体とで握手とハグをしてくれたのです。その様子を見ていた男性秘書が、チラッと難しい表情をされているのを見てしまったのです。彼は、アルコールを含ませた布で、机やいすを拭いていました。キモセラピーの治療後は、手に触れるものや通気に注意しなくてはいけないのです。握手やハグは禁物なわけです。理由を言われて避けられればいいのでしょうけど、彼は歓迎の意を体いっぱいで表現してやまなかったのです。




 そういえば、彼の会社のスタッフの一人の方は、若いときに、隣の町で会社を始めたのですが、難しい問題が起きると、この社長さんに相談をされていたようです。でも会社は倒産してしまったのです。そうしましたら、この社長さんは、好待遇で彼をスタッフの一員に招いたのだそうです。失意の彼を見過ごすことが出来なかったからです。そういった優しさがあって、彼の能力が引き出されて、有能な協力者となって貢献していたのです。滞在中、彼がスーツではなく、ラフなセーターを着て、日本のステーキハウスの晩餐に来られたことがありました。私たちの歓迎会でのことでした。『これ年を取った母の手縫いなんですよ!』と言っていました。有名ブランドの製品を着るべき大会社の社長さんなのですが、ちょっとちぐはぐで、お世辞にも体に合っているとはいえなかったのです。それを承知で、母親を誇るかのように、すんなりと着こなしておられたのです。『なかなか出来ないな!』と思わされて、この企業の祝福の秘訣は、こんな小さなところにあるのだろうと思わされたのです。つまり、人を大事にすると言った生き方でしょうか。この社長さんの友人も同じテーブルについていたのですが、『大会社の社長は、高級ブランドの背広を着て、ヨーロッパ製の高級車に乗るのですが、彼はどちらにも頓着が無いんです!』ともらしていました。驕りとか誇りとかいったものを持たない彼に、すっかり魅せられてしまいました。



 企業の魅力よりも、人となりの魅力のほうが、ずっと印象に残るもののようです。その頃、二人の娘が、ポートランドの南の方の大学町で勉強をしていました。ある日、彼女たちが訪ねてきて、この社長さんと交わることも許されたのです。彼女たちも歓迎されて満足だったようです。あの時も秋でした。コロンビア川の鱒の養漁場に連れて行ってくれたり、ポートランド市内の観光スポットも案内してくれました。日本の大きなスーパーがあって、バス観光のときの昼食は、わざわざ特注した日本食の弁当で、納豆まで用意してくれました。

 『懐かしいな!』と人を思い出すのは、異国で秋を迎えているからでしょうか。それでも、まだ日中は真夏のように暑くて、汗が噴き出してきます。11月までは夏のようだったのを昨年経験して、まあ覚悟しているのですが。彼の書いた本を一冊、こちらに持ってきていますので、少しずつ読んでみようかと思っている、「読書の秋」でもあります。

《写真は、「オレゴン大学」http://www.senshu-u.ac.jp/School/eibeibun/abroad/imoto.html、「マウント・フッド」、彼の会社の一角、赤い所がオレゴン州です)


1 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

Feel good......

Powered By Blogger

自己紹介

 次男に勧められて始めた「ブログ」ですが、2007年7月から1年間休刊しました。その間、他の「ブログ」を開設したのですが、2008年7月に、名前を変えて再開しました。  父として子どもたちに、爺として孫たちに、また母や兄弟や友人たちにも、何かを語り残したいと願って、続けています。