2008年9月12日金曜日

人生修行


 子どもの頃に、小学校の運動場に映写幕を張って、映写会がもたれていました。美空ひばりの「りんご追分」が上映されていたのを覚えています。スクリーンの表と裏から両方から見るほどの盛況だったのです。また「旅芸人」がよく町にやって来ました。甲州街道の要所にあった、大きな神社の境内に小屋がかけられ、木戸銭(入場料)を払って観劇して、泣いたり笑ったりしたものです。まだ時がゆっくりと動き、世の中が、せわしくなかった時代だったのでしょうか。そういった劇団は、町から村へ、村から村へと旅をしながら、テレビの無かった時代の庶民の娯楽だったのです。小遣いを握っては出かけたのですが、親は黙認してくれました。それででしょうか、ちゃんばらごっこをして遊び、テレビの放映が始まると、「時代劇」にチャンネルを廻しては観て楽しむようになったのです。われわれの世代は、ジャズやアメリカ映画も好きですが、「原風景」とでもいうのでしょうか、子どもの頃の体験を、どうしても引きずっていて、結局は、おじさんやおじいさん趣味に回帰してしまうのでしょうか。


 『良い人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修行。難儀な時やるのが、本当の仕事!』と言うことばを聞いたことがあります。・・・世の中には二種類の人がいる。いい人だけではなく、悪い人との出会いも避けることが出来ない。避けられないのならその出会いを嫌わないで、「修行」の時と心得て交わりを持て・・・そう勧めているのです。2005年に、105歳の長寿で召された「最後の瞽女(ごぜ)」と言われ、「人間国宝(重要無形文化財)」の小林ハルさんが言われたことばです。この「瞽女」について、次のように解説されています。『三味線をこわきにかかえ、門づけ歌や段物・くどき・はやり歌などを歌い歩いた盲目の遊行芸人 ″瞽女(ごぜ)″の組織は、昔は関東・北陸から九州にいたる広い地域にわたって随所に見られたというが、越後に本拠におく瞽女集団が最も発達し、かつ近年 まで存続してきたということは注目すべき現象であり、雪国という風土や社会環境のしからしむるころが大きいと思われる。……鈴木昭英著「刈羽瞽女」(長岡市立科学博物館研究報告№.8 昭48)」とです。かつての日本では、目や耳などの体の不自由な子が生まれると、親に捨てられてしまう事例が多かったのです。そういった子どもたちに心を向けて、技術を身につけさせ働くことのできるような授産施設など無かった時代、親や奇特な方が、女の子に三味線を習わせたり、按摩の技術を教えたのでしょうか。彼らは、それを身につけて、差別や偏見の中を逞しく生きて行ったのです。





 私の親爺の日記帳の中に、『順境の日には喜び、逆境の日には反省せよ!』とありました。子どもである私たちに、そう言い残したのです。『雅、人生晴れの日ばかりじゃあないぞ。雨も雪も闇もある。陽がさんさんと降り注いでいたら、それ嬉々として喜ぶんだ。太陽の恵みに感謝しながら。鉛のような分厚い雲で天が覆われていたら、静かに自分の心中を覗き込んでごらん。これまで語った言葉や行いが、よかったか悪かったかを反省して、次には誤らないようにして生きていくんだ!』と言ってくれたのでしょうか。親爺もハルさんも同じことを言ったことになります。「発想の転換」が、新しい発明を生むための一つの大切な一歩だと言われています。としますと、私たちの人生修行だって、この「発想の転換」をしていけば、もっと楽しく、意味のある時を生きることができるわけです。

 


 ハルさんは1900年、新潟県三条市の農村に生まれましたが、生後間もなく、白内障に冒されて、目が不自由になったのです。彼女には、厳しく自活の道を考えてくれた母親、二歳の時に死別し愛してくれた父親、そんな彼女を厳しく稽古した親方、彼女の優れた技術を妬みいじめる姉弟子がいたのです。そのような中、辛抱強く生きることが出来たのは、お母さんとお父さんとに愛された記憶があって、それがハルさんを支えたのでしょうか。辛い経験を「人生修行」に変えてしまう能力は、何と明るくって、積極的な生き方であり、そのように生きた人だけができる勧められることではないでしょうか。『雅、鼻から息をする人間に信頼を寄せてはいけないの。人間の限界を知った上で、その人を信じて上げなさい!』、これは、私の母の処世訓の一つでした。世の中、西に行っても東に行っても、「修行の機会」があふれているのです。まあ一生学びなのでしょうか、まだまだの域に甘んじている、紺青の秋空の下、福州で生きて修行中の私であります。


(写真は、船の軌跡の向こうは新潟港「新日本海フェリー『らいらっく』乗船記http://、www.journey-k.com/~takaboo/funatabi/jyosenki/lilak.html、中は、本間章子著「小林ハル」求龍社の表紙、下は、「瞽女」の旅姿http://blog-eda.net/gozeuta/、

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自己紹介

 次男に勧められて始めた「ブログ」ですが、2007年7月から1年間休刊しました。その間、他の「ブログ」を開設したのですが、2008年7月に、名前を変えて再開しました。  父として子どもたちに、爺として孫たちに、また母や兄弟や友人たちにも、何かを語り残したいと願って、続けています。