2007年2月13日火曜日

詩心をもって生きよ!


 『あなたたちは詩人であって欲しい!』と、30代後半ほどの年齢で、目の澄んだ、髭剃りあとの頬の青い、端正な顔立ちの講師が講義をしていました。彼の授業は楽しく一度も休んだことがなかったのです。聴いた多くの講義の中で、この言葉だけがまだ耳に残っています。講義された百番教室、そのたたずまいも臭いでさえも、思い出せと言えば思い出すことができます。

 Y市で社会事業に従事されて、社会からなおざりにされた方々のために骨身を惜しまずに世話をされておられました。彼が、後輩に伝えたかったのは、『詩心を持って生きよ!』と言いたかったのでしょう。夢を持って生きること、たった一度の人生を、物の豊かさではなく、心の豊かさをもって生きることを勧めたかったに違いないのです。

 彼は、いつも紺の背広に同じネクタイで講壇に立っていました。『物ではなく、精神こそが一番大切なのだ!』と無言のうちに語りかけているようでした。禁欲主義者かと思うと、そうではないのです。ピューリタンの継承者だったに違いありません。

 いつでしたかテレビの対談に出ておられたのを見ました。髪の毛が白くなり、少し太られたように見受けられたのです。でも、その目の澄んだ輝きは、あの百番教室に立っていた時と同じでした。彼をブラウン管の中に見、彼の話を聞いたとき、30年ほどの年月が経っていたのですが、彼の理想とする生き様も価値観も変わっていないのが分かったのです。同じように生きて来たことを伺い知ることができて嬉しさが込み上げてきました。教育と言うのは、口先の行為ではないのだろうと思います。手と足とが「心の原理」に従って動き出す行為だと言えるのではないでしょうか。

 この師から一冊の薄い本が送られて来たことがありました。その中に、ベルジャエフと言う思想家の言葉が引用されていたのです。『自分のパンの問題は物質的であるが、人のパンの問題は精神的である。』とありました。《人のパンの問題》に、心を向けて生きること、彼がベルジャエフに挑戦されたことなのでしょう。そして彼もまた、そのように生きることを、われわれに願ったのだろうと思うのです。渇き飢えた現代人の心に、天来の糧をもって届きたいと切に願うこのごろです。詩心をそえて。                (2007年2月13日)

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自己紹介

 次男に勧められて始めた「ブログ」ですが、2007年7月から1年間休刊しました。その間、他の「ブログ」を開設したのですが、2008年7月に、名前を変えて再開しました。  父として子どもたちに、爺として孫たちに、また母や兄弟や友人たちにも、何かを語り残したいと願って、続けています。